ヴィンテージと聞くと希少価値の高い高価な作品を思い浮かべがちだが、大切なのは、受け継ぐのは物だけではなく“思い”ということ。
最近、日本でもヴィンテージがトレンドになっているが、そもそも海外では1点物の価値を楽しむライフスタイルが根付いている。
では、パリのトレンドセッター達はどうやってヴィンテージを楽しんでいるのか?
世代もジャンルも不問。彼等のお気に入りのヴィンテージアイテムとクローゼットをまとめて紹介する。
ALLU Story
11歳の頃から、両親と蚤の市に行くのが毎週末の楽しみだった。眠い目をこすりながら、卸売業者の箱を開梱して過ごした土曜日の朝8時。アメリカ国旗が描かれた1990年代の「ラルフ ローレン」のセーターや、「リー クーパー」のダンガリーを探し求めて、お宝を掘り出すのに夢中になった。両親から持って帰るのを許されたのは、毎回1つだけ。10~15ユーロのヴィンテージ品に価格以上の価値を感じていたし、時代を超越した良質な作品に対する審美眼を育ててくれた。
1年かけてようやく出合えた、1990年代の“ダリ ソフト ウォッチ”
自宅のベランダにて
15歳の時に幼なじみから購入した「ディオール」“サドル”ポシェット
フランスの地方にある軍服卸売販売業者から購入したミリタリージャケットと「ザラ」のドレス
親友が日本で購入し、30歳の誕生日にプレゼントしてくれた着物
アクセサリー収納スペース
年齢を重ねるにつれ、自由に高価な新品を購入できる大人になった今でも、私のワードローブの基盤はヴィンテージ品。数年前にリセールサイトで見つけた、ジョン・ガリアーノ時代の「ディオール」のネイビーモノグラムの“サドル”バッグが最近のお気に入り。現在のウィメンズ・アーティスティック・ディレクター、マリア・グラツィア・キウリによる同デザインのバッグは、リセールサイトで高値で取引されていて、本当に価値あるヴィンテージは色あせずにタイムレスであることを物語っている。同じブランドであっても、芸術的なディレクションを指揮する異なる時代のデザイナーによって、何百万もの新たなストーリーが生まれていく。ヴィンテージ品を着用することは、ブランドの現在を尊重しながら、重厚な歴史に敬意を表すようなもの。だからヴィンテージの一番の魅力とは、“遺産”だと感じている。
「バルマン」に勤めていた時の上司が譲ってくれた「サン ローラン」のクラッチバッグ
自宅のインテリア雑貨
母が35歳の時に購入した「ルイ・ヴィトン」のトラベルバッグ。その母は現在70歳
散らかっているくらいがちょうどいいクローゼット
「ロエベ」“ケン プライス”コレクションのバケットバッグ。使わない時はインテリアとして活躍
ヴィンテージの「ラルフ ローレン」のパッチワークニットと「リーバイス」501ジーンズ
サステナビリティという言葉を意識するずっと以前からヴィンテージを愛していた私にとって、この消費行動が環境に優しいと気付いたのは最近のこと。ファッション業界が環境に配慮した責任ある生産へと進化しているとはいえ、最良の方法は既存のものを再利用することなんじゃないかしら。時には新品を購入するけれど、あくまでワードローブを補強する脇役であって、レトロ&モダンなミックススタイルは自然に作られていった。ファッションに対する私の情熱は、幼少期に蚤の市で宝探しに夢中になっていた時とこれからも全く変わることがない。
お気に入りの香水は「カルバン・クライン」と「フラゴナール」
ピーチズのコンサートで購入したTシャツと、モロッコの土産品のミラー
スタイリングの決め手となるシューズ
タイガーマスクはタバコ入れとして利用
母の「カルティエ」の7連リングと祖母の「モーブッサン」のリング
ヴィンテージショップで購入した「ディオール」“サドル”バッグと祖母から譲ってもらったトラベルバッグ。ハンドルのレザーはくたびれているけれど、祖母が世界中を旅した思い出が刻まれているようでこのままにしている
Profile
「ロエベ」メンズ開発責任者。1990年にパリ近郊で生まれ、8歳からパリで育つ。高校を卒業後、エスモード・パリでファッションデザインを学び、「バルマン」と「Yプロジェクト」でキャリアを積む。現在はメンズのヘッド・オブ・ディベロップメントとして「ロエベ」に従事。週末の過ごし方は蚤の市巡り。バカンスで地方を訪れた際も、必ずヴィンテージショップをチェック。タイムレスで上質なアイテムを自由にミックスさせて、日常使いするのが得意。
ヴィンテージの洋服を着用し始めたのがいつの頃だったのか、思い出せないほど遠い昔。幼少期には母が、兄のおさがりで僕のコーディネートを組んでくれた。新品の洋服は、クリスマスや誕生日といった特別なオケージョンだけ。物心ついた頃も、父や祖父の愛用品を譲り受け、僕のワードローブの一部としてその作品に新章を書き加えることに喜びと情熱を感じてきた。家族のクローゼットで置き去りにされた作品を見つけるのは、インディ・ジョーンズになりきって宝探しをするようで気分が高揚したのを覚えてる。
母が「ヴェルサーチェ」のショップで購入したニットウェア
「グッチ」の年代物のサングラス
祖父から譲り受けた「バーバリー」のハンチングは、レトロなデザインがお気に入り
北フランスのヴィンテージショップで見つけたノーブランドのネックレス
叔父がくれたシルクジャケット。リラックスのシルエットで着心地も抜群
「グッチ」「バレンシアガ」のヴィンテージと、友人が手掛ける「パンコネージ」のジュエリー
歴史を刻んだヴィンテージに魅せられて、学生時代はヴィンテージショップに足しげく通った。新品を避けていたわけじゃないけれど。というより、正直なところ学生の僕には経済的な理由から、ヴィンテージの選択肢しかなかったのかもしれない。しかし、ヴィンテージショップで出合った流行遅れのプリントが描かれた古布や、アイキャッチ過ぎるプリント、並外れた色の組み合わせは、ファッションの創造性をかき立ててくれた。ヴィンテージ初心者だとしたら、まずはアクセサリーやジュエリーなど小物から取り入れてみるのがオススメ。何より重要なのは、経験を積んでトライ&エラーを重ねること。ファッションとは、何をすべきorすべきでないと決めるものじゃない。逆に、ルールを恐れてはならないゲームだと思う。“正解”を求めるのではなく、心ひかれるアイテムを自由に組み合わせることで、自分のスタイルが確立していくと信じてる。
レイブな雰囲気のサングラスは、「クレージュ」のデッドストック
「グッチ」のデッドストックのサングラス。アクセサリーはカラフルなアイテムを選んで差し色に
ヴィンテージのアナログカメラ
「シュプリーム カンゴール」のビーニーと「グッチ」のデッドストックのバゲットハット
「グッチ」「バレンシアガ」「ナイキ」「アシックス」のスニーカー
クローゼットにはヴィンテージと新品の枠組みを設けず収納
最近は、ヴィンテージショップで見つけた古布で洋服を自作することもある。地球環境のことを考えると、ヴィンテージや古布を選択するのが賢明なのは確か。とはいっても、新品を購入して、ヴィンテージとミックスさせたスタイルも好き。“正解”がないと先に述べたように、ヴィンテージだけが正しい答えでもないと思うんだ。1つひとつの作品を長く愛し、心に響く洋服に身を包んでいたい。僕にとってそれは、いつだってヴィンテージ品なのだと思う。
インスピレーションを与えてくれるグラフィティやファッションの本
家具もヴィンテージが好み。自宅では「リーン・ロゼ」のソファの上が一番くつろげるスペース
父からもらったフランスのフットボールチームのユニホーム
自身のブランドで使用する廃棄布
フューチャリスティックな「バレンシアガ」のアイウェア
ヴィンテージのレコードをコレクション中
Profile
「Scotomalab SAS」CEO
フランス生まれの28歳。自身が設立した「Scotomalab SAS」で、3Dファッション・デザイナー兼クリエイティブ・ディレクターとして廃棄布を使ったオートクチュールや仮想空間でのクチュール作品を制作。最近では、「バレンシアガ」をはじめとしたビッグメゾンの、メタバースのプロジェクトにも参画。また、トレンドリサーチャーとして多くのファッションブランドに携わり、マルチな才能を発揮している。
ファッション業界に長年身を置いていると、消費慣習について考えさせられる機会が多い。この業界が、地球上で最も環境汚染に加担していることはすでによく知られていること。ブランドのセールスとして働いている私が言うのは矛盾しているように聞こえるかもしれないけれど、“買うために買う”という過剰消費には疑問を抱いてしまう。私にとって洋服は、ブランドを誇示するためのものではない。だからトレンドを追うこともないし、ワンシーズンで廃れてしまう品質の低いテンポラリーなアイテムをワードローブに加えることはない。
「イッセイ ミヤケ」のマイクロミニドレス
自宅に飾っているアートピース
インスピレーションとなるフォトブック
18歳の時に原宿で購入したレッド・ツェッペリンのバンドTシャツ
母が譲ってくれた「イッセイ ミヤケ」のマイクロミニドレスはステートメントピース
「シャネル」に勤めていた時に手に入れた、メゾンのアイコンであるキルティングバッグ
ヴィンテージは、エコロジカルフットプリントが低く環境に優しいというだけでなく、以前の所有者と思い出を共有できるところに最大の魅力があると思う。私は幼い頃から、母や祖母のクローゼットをあさっては、洋服を拝借していた。家族とともにいくつもの試練と時代を乗り越え、1つひとつに唯一無二の物語が宿っている洋服。最も記憶に残っているのは、長年切望していた「イッセイ ミヤケ」のマイクロミニドレスを母が私に譲ると決めた日。開いてしまっていた穴を修理して今でも大切に着ているドレスは、夏のバカンスの時にビキニとビーチサンダルでノンシャランに着こなすのがお気に入り。映画「太陽が知っている」のジェーン・バーキンみたいに!
「パコ ラバンヌ」の“スパークル ミニ1969”
父が贈ってくれた宝物の「ミキモト」のパールネックレス
愛用フレグランスは「シャネル」
自宅のインテリア
パーティムードの時は、スパンコールで華やかに
10年以上前に購入した「スチュアート・ワイツマン」のニーハイブーツは、傷まないように大切に履いている
父が母に贈った「ミキモト」のイヤリングは、30年後にヴァンドーム広場の旗艦店でピアスに替えてもらい、今は私のお守りジュエリーになっている。父が日本に単身赴任している間にプレゼントしてくれたネックレスとセットにして身に着けると、離れ離れの家族が1つになった気分になれる。初めての給料で購入した「スチュアート・ワイツマン」のニーハイブーツや、学生時代に苦楽をともにした親友が制作した「アリゼ イン シェン」のエクスクルーシブなコート、18歳の時に原宿で購入したヴィンテージのTシャツなど、私の洋服には必ず思い出が付随する。そしてこれからも、人生の大切な瞬間を彩るアイテムとして、新たな物語を一緒に紡いでいく宝物。
「シャネル」に勤めていた時に、「バリー」と共作したピース。立ち上げから携わった思い出深い作品で、カーディガンを纏うと思い出が蘇ってくる
親友が制作した「アリゼ イン シェン」のコートには、学生時代の彼女との思い出が詰まっている
大切なヴィンテージジュエリー
父が母に贈った「ミキモト」のイヤリングはピアスに替えて愛用中
オリエンタルな柄が素敵な「アリゼ イン シェン」のコート
自宅を彩るお花
Profile
「パコ ラバンヌ」ショールーム・マネージャー
フランス生まれで、幼少期を東京で過ごしたインターナショナルな背景を持つパリジェンヌ。フランス本国の「カルティエ」と「シャネル」でマーケティング&プロダクション・マネージャーを経験し、現在「パコ ラバンヌ」のショールーム・マネージャーを務める。ラグジュアリー&ヴィンテージのミックスが基本スタイル。テクノやディープハウスの音楽好きで、レコード収集にも夢中。