傷に強い素材で、移動に欠かせない「ルイ・ヴィトン」のスーツケースとバッグ。10年以上愛用している。ここ数年は2拠点生活なので、週末に千葉を訪れる際には毎回活躍。丁寧にリペアしながら使っている。
ALLU Story
リユース、ユーズドに付きまとう「古い」というイメージと、「新品こそがステータス」とされる価値観が今なお根強く残る現代の生活において。
ALLUは、ライフスタイリストの大田由香梨とともに積極的にヴィンテージアイテムの本質的な魅力を発信し続けている。
トレンドに左右されずに本当に好きな洋服を選ぶことができ、大切なアーカイブを次に愛してくれる別の誰かにバトンとして引き継ぐことが可能なリユースは、今やファッション業界において無視できない大きな潮流の1つであり、ファッションの未来をかたちづくる希望そのものである。
ここではマガジンのテーマである“バトン”について、自身の思いとともに彼女に語ってもらった。
「ミュウミュウ」のライダースは、「一生着たい」と思って購入したアイコン的1着。ワンピースは「ドリス ヴァン ノッテン」。3年ほど前までは、毎シーズン何かしら購入していたリスペクトするブランド。
大切に保管をしているという「バレンシアガ」のドレス。上質な素材と美しいシルエットはクローゼットの中でいつも輝いていてふと着たくなる存在だという。とても思い入れのあるこのドレスは、捨てることは考えられないくらいの特別なもの。
大切に保管をしているという「バレンシアガ」のドレス。上質な素材と美しいシルエットはクローゼットの中でいつも輝いていてふと着たくなる存在だという。とても思い入れのあるこのドレスは、捨てることは考えられないくらいの特別なもの。
空気感とエネルギー
時間を経てきたからこその魅力
空気感とエネルギー
時間を経てきたからこその魅力
私が好きなのは、“命が長いもの”。洋服に限らず、インテリアでも、器でも、10年、20年と使い続けられるクオリティのものを、自然と手に取っているように思います。20代の頃は、トレンドファッションのど真ん中でスタイリストの仕事をしていましたが、その時も今思えば「デニムにライダース」のような、ヴィンテージアイテムとして価値のあるアイテムを好んで身に着けていました。もともとワークウェアやミリタリーなど、頑丈なものの作りに関心があり、そういったものが好きでした(笑)。ヴィンテージアイテムには、時間を経たからこそまとっている空気感があると思うんです。身に着けたときに放つエネルギーが違う。ファッションとしての重みが増す感じがして、それがおもしろさの1つなんですよね。
日本で「ハイブランドのリユース」というと、「質屋」や「ブランド品が安い」というイメージを持たれる方がいまだに多いです。それは戦後の高度経済成長期で醸成された、「新品を買うことがステータス」という価値観が根強いのかな、と考えています。
私にとってハイブランドのヴィンテージ品は、それ自体がとても魅力的です。ヨーロッパのアーカイブショップでは、なん年代の「シャネル」のツイードジャケットとか、マルジェラがデザイナーだった頃の「エルメス」とか。欲しいと思っても、もう正規店では買うことができないものとの出会いがあり、相応の価値で取引されているんです。最近は、若い世代でもハイブランドのヴィンテージファッションを楽しむ人が増えてきました。エコ的な意識もあると思いますが、純粋に、みんなが同じ最新トレンドの服を着ることに違和感を覚え始めているのではないでしょうか。自分らしい服を見つける方法として、今の時代は「ブランドへの共感」があると思うんです。ひと昔前までは、ファッション業界に身を置く人以外は、それぞれのブランドの理念や歴史を知る由もなかったので、ブランドネームを見たり、雑誌の情報を見て、なんとなく買いものをしている方も多かったと思います。
でも、今は違う。誰でも情報を手に入れられるようになったからこそ、そのブランドをリスペクトできるか、デザイナーの生き方に共感できるか……。バックグラウンドを知った上で、時代を超えてアイテムを選ぶ時代になっていると感じます。例えば、「シャネル」というブランドに自分の人生を重ね合わせて、そのスタイルに賛同し続けているカスタマーとブランドの関係には、お互いにリスペクトがあります。お店側はカスタマーを特別なパーティにご招待したり、いち早く新作の案内をするなど特別な関係性ができているわけです。自分にとっての「アイコンブランド」を見つけられたら、自宅のクローゼットがそのブランドのアーカイブになっていく……それって、すごくすてきだと思いませんか。
もちろん、一生同じブランドを好きでいる必要はありません。ライフスタイルや嗜好が変わったら、次のステージに進むタイミング。そういう時にはクローゼットを整理して、次のオーナーへと物語を引き継いでいきます。
パートナーが贈ってくれたというヴィンテージの「ロレックス」。定期的にオーバーホールに出しつつ愛用している。ネックレスは、ペルーに移住した親戚が母に送った現地のもの。それを譲り受けた。お金では買えない大切な一品。
自分で自分をアーカイブする
あなたは未来にどんなバトンをつなぎますか?
自分で自分をアーカイブする
あなたは未来にどんなバトンを
つなぎますか?
アイテムを通したコミュニケーションから、循環が生まれているんですよね。それはお金だけではなく、ブランド側が提供する体験や、価値を含めた循環。そこから、人との出会いが生まれる。そしてライフスタイルが成熟していく。そういうつながりは本来日本にも深く根づいていた関係性なんです。
例えば、サザエさんに出てくる三河屋さん。あれは、定期的に届くお酒のサブスクリプション的で、三河屋さんが磯野家の冷蔵庫を管理してくれているのと同じように感じますよね。
そういう意味では、ALLUと私の関係は三河屋さん的。継続的に出品することで、「大田さん、『ドリスヴァンノッテン』をたくさん持ってますね」って知ってくれているし(笑)。店と利用者との温度感のあるコミュニケーションが、今また求められていると感じています。
「サステナブル」も、ここ数年のファッション業界におけるキーワードの1つ。ブランドの環境配慮への姿勢は、購買活動に大きな影響を及ぼす時代となりました。私としては「絶対にエコじゃなきゃいけない」という発想ではなく。もちろんとても大切なことですが、純粋に、地球環境に配慮して作られた衣服の方が、かっこよく見える。そして良いものを長く使い続けることが素晴らしいと思うのです。
過酷な環境の中で、あと何時間で帰れるんだろう……って時計を気にしながらミシンで縫った製品と、プライドを持ったつくり手が丁寧に心を込めて縫い上げた製品とでは、やっぱり全然違います。そういう製品との出合いに豊かさを感じるようになったきっかけは、私自身が生産者を訪ねるようになったことです。デニム好きがこうじて世界中のデニム工場を周った際には、汚染物質を気にしない工場もあれば、環境に配慮した施設を徹底して整えている工場もありました。そういう経験を通して、自分なりの答えが見えてきた部分はありますね。
このマガジンのコンセプトを、ALLUの皆さんと共に「バトン」に決めました。シンプルかつ、本質を表した言葉だと感じています。物質としての商品だけじゃなく、そこに込められた理念、技術、さらにはそれらを取り巻く自然環境も、地球上にあるものすべてが引き継がれて“今”がある。
そういう思想を軸にものごとを考えると、より長期的な視点が大切なんじゃないかなって思うんです。自分が何を信じて生きていて、何を次の時代にまで引き継いでいきたいのかこそに、意味があると思います。
自分のことをアーカイブできるのは、自分自身だけ。他人の評価は、アーカイブされていくものではありません。諸行無常な世界に生きているからこそ、自分に忠実に、「人生を味わい尽くす」ことにフォーカスしたほうが絶対いい。私はそう思っています。あなたは未来に、どんなバトンをつなぎますか?
2015年にクリエイティブ・ディレクターがアレッサンドロ・ミケーレに代わってから、カルチャーを強く打ち出すようになった印象の「グッチ」。
シンプルな服装が多いという彼女は、足元に「グッチ」を合わせることで、人となりをわかってもらえる気がするという。
CROSS TALK
Shinsuke Sakimoto × Yukari Ota
ファッション産業による環境汚染が深刻化する中、世界的なサステナブル・トレンドに合わせ環境に配慮した取り組みに注力するブランドも増えてきたが、ファッションと環境問題はいまだ根深い関係にある。ここでは、ALLUを運営するバリュエンスホールディングス代表取締役社長の嵜本晋輔とライフスタイリスト大田由香梨の対談を通して、ALLUが掲げるミッションとファッション産業が抱える環境問題とのリアリティのある向き合い方を探る。
Photography IBUKI Text Maki Nakamura
Photography IBUKI Text Maki Nakamura
Profile_
嵜本晋輔/2001年にガンバ大阪に入団し、2003年のシーズン終了後に退団。その後、家族が経営していたリサイクルショップに本格的に参画する。2011年に起業。現在は“Circular Design for the Earth and Us”というパーパスを掲げ、世界中の価値あるモノと人を世界規模でマッチングする事業を手掛ける。また、南葛SCというサッカーチームの取締役や、2022シーズンより参画したDリーグバリュエンスインフィニティーズのオーナーも務める。
大田由香梨/ファッション、フード、住空間など、人の営みに必要な衣食住をスタイリングする”ライフスタイリスト”として活動。株式会社スリーピングトーキョー取締役。2021年からは、東京と千葉県九十九里でのデュアルライフをスタートし、企業・ブランドへのクリエイティブや、公共プロジェクトを通して、サステナブル(持続可能)で美しい未来の循環型のライフスタイルを提案している。
嵜本晋輔/2001年にガンバ大阪に入団し、2003年のシーズン終了後に退団。その後、家族が経営していたリサイクルショップに本格的に参画する。2011年に起業。現在は“Circular Design for the Earth and Us”というパーパスを掲げ、世界中の価値あるモノと人を世界規模でマッチングする事業を手掛ける。また、南葛SCというサッカーチームの取締役や、2022シーズンより参画したDリーグバリュエンスインフィニティーズのオーナーも務める。
大田由香梨/ファッション、フード、住空間など、人の営みに必要な衣食住をスタイリングする”ライフスタイリスト”として活動。株式会社スリーピングトーキョー取締役。2021年からは、東京と千葉県九十九里でのデュアルライフをスタートし、企業・ブランドへのクリエイティブや、公共プロジェクトを通して、サステナブル(持続可能)で美しい未来の循環型のライフスタイルを提案している。
地球の未来のためにつなぐこと
「物を物語に」というステートメントを掲げALLUを運営する嵜本社長、そしてファッション業界のオピニオンのひとりであり、サステナブルな未来のライフスタイルを提案し続けてきた大田は、共にヴィンテージアイテムに対するファッション業界の新たな価値観の醸成を目指し、日々活動している。
大田由香梨(以下、大田):嵜本さんと出会ってから、まだ1年もたっていないのかな。私が登壇していたイベントを見て、それで声をかけてくださったんですよね。思いを同じくする者として、これまでいろいろな取り組みでご一緒してきましたが、改めて嵜本さんが「ALLU」に込めた思いを教えていただけますか。
嵜本晋輔(以下、嵜本):ALLUでは、「物を、物語に。」というブランドステイトメントを掲げています。「物を語る」と書いて「物語」なんですけど、ただ単に商品説明をするという意味ではなくて。そのブランドのものづくりに対する姿勢や、前の所有者の方の思いまできちんと理解して、そのストーリーを次の所有者に伝えていくことが、ALLUの使命だと思っています。
大田:大事なことですよね。この考え方こそ、嵜本さんと出会ってすぐに意気投合した理由でした。ものには絶対に魂があると思っているので、それをしっかりと輝かせて次につないでいくっていうことは、私もスタイリストとしてすごく大切にしています。
嵜本:新たな命を吹き込む作業が、重要だと思っているんですよね。ただ単に、商品を右から左に流すのではなく。
これまでのリユース市場というのは、まず定価があって、その価格よりも安く買えますよ、ということしかほとんど訴求できていなかった。そうすると、他社とのディスカウント競争になるだけですし、私たちの本来の思いからは離れていってしまいます。
大田:バッグや時計の修理専門であるリペアチームが、数十人体制で社内にいらっしゃいますよね。
嵜本:そう、その部分にはすごくこだわっていますね。きちんとメンテナンスを施したものを提供することによって、お客さまにとっての安心感、信頼感が生まれると思っています。
すべての商品は経験豊富なスペシャリストが査定済み。各商品専門のリペアチームでメンテナンスし、品質を保証している。
大田:安心感って、本当に大事ですよね。私もALLUと出会う前は、一般のオークションサイトをのぞくこともありましたけど、ハイブランドをうたっている商品ほど、こわくてなかなか買えなかった……。
嵜本:確かに(笑)。気持ちはよくわかります。他にも直近の取り組みとしては、お客さまとの1対1のコミュニケーションができるツールを採用しました。主にLINEの仕組みを利用しているんですが、お客さまが探していた商品がなかった時にも、ご要望をヒアリングした上でパーソナルなオーダーに応えられる。このあたりは、ALLUならではのサービスだと思います。
大田:新品からチョイスしようとしたら、今期のアイテムしか選択肢がない。でも、ヴィンテージにまで目を向ければ、そこには何十年分のアーカイブが広がっているわけですよね。その中から自分らしいものを選べるって、すごく幸せなことだと思うんです。
嵜本:グローバルに展開しているからこそ、日本ではなかなか出会えない希少性の高い商品を集められるのもALLUの強み。最新トレンドからヴィンテージまで同時に取り扱うということは、ブランド本家にも引けをとらないことだと自負しています。
ファッションと環境の現実
ALLUでは各製品のタグに、リユースによる環境負荷の削減貢献量「リセール・インパクト」を掲載。バリュエンスグループが独自開発した「バリュエンス・リセール・インパクト・カリキュレーター」を用いて、二酸化炭素排出量・水使用量・エネルギー使用量・PM2.5排出量の削減貢献量を数値化している。
大田:もうひとつ、ALLUを語る上で忘れてはいけないのが、環境に対する取り組みですよね。
嵜本:そうですね。ALLUでは、新品ではなくリユース品を使うことによる環境負荷の消減貢献量を見える化した「リセール・インパクト」を、商品のタグに掲載しています。具体的には、「CO2排出量」と「水使用量」等の削減貢献量の数値です。算出には、LCA(ライフサイクルアセスメント)の考え方を採用しています。LCAとは、1つの製品の原料調達、製造、輸送、販売、その後の廃棄・リサイクルに至るまでの工程における環境負荷を定量的に評価する手法のことです。
私達は、新品で発生する環境負荷から、リユース品の場合の環境負荷を差し引いた差分を「リセール・インパクト」として算出する独自のロジックを開発しました。
この数値を伝えることで、お客さまに「私も地球に貢献できるんだ」と気付いてもらいたい。“心の豊かさ購買”というか、ALLUで買いものをすることによって心が満たされていく、そんな共感を広げていきたいと思っています。
大田:ファッションって、特に環境負荷が高いといわれている業界なので、こういう取り組みをしている企業が日本にあることが、私は本当に嬉しいんです。何年、何十年と受け継がれてきたものを購入するって、過去の価値と未来の可能性を同時に買っているということだと思うんです。自分の人生と共にそのアイテムの一生も終わるのではなくて、私がこの世界を旅だったあとも、物語をALLUに託していきたい。そんなふうに思いますね。
嵜本:ありがとうございます。ALLUでは、大田さんのように考えに共感してくれる環境負荷削減貢献量の高い方など、一定の条件を満たした利用者だけが入れるラウンジ「バロン バイ バリュエンス」を、今年銀座にオープンしました。持続可能な社会を共創するきっかけのような場所になれば、と考えています。
大田:業界全体が、今大きな岐路に差しかかっていると思うんですよね。
嵜本:いや、本当に。これからの時代は利益追求型ではなく、循環前提でビジネスモデルを構築していくことがマストになっていくと思います。リデュース、リユース、リペア、リメイク。各ブランドそれぞれが、これらの取り組みに向き合っていくことが求められると思いますね。
でも、それが自社ではなかなか難しいとなった時には、僕らのような企業が構築してきたノウハウを提供することもできる。企業同士も共創していかなければいけないと思っています。
ALLUは表参道店・銀座店・心斎橋店の3店舗を構える。
大田:これまでのファッション業界では、「ブランドの消費」が行われてきたって、おっしゃっていましたよね。
嵜本:そう。悲しいかな「ブランド品を持つ=幸せ」って考える人も多くて。でもそれって、本来の自分なの? っていう。影響力のある人がそういう発信をすることによって、そう信じ込んでいる、偽りの人格を演じさせられていませんか? って思うんですよね。
バリュエンスグループでは、新たに「大切なことにフォーカスして生きる人を増やす」というミッションを加えました。ALLUの役割としても、お客さまのクローゼットのコレクションを増やすお手伝いだけではなく、その方にとって一番大切なものにフォーカスするという生き方を提案するってことになっていくんじゃないかな、と。
大田:すごくわかります。よく、「服はたくさんあるのに、何を着たらいいのかわからない」って相談を受けるんですけど、そういう人って自分を見失っていることが多い。自分の生きる道がしっかりと見えれば、自然とクローゼットってシンプルに整うんですよね。
嵜本:だからこそALLUでは、ものを手放す機会も提供しているんです。「Less is More」、少ないことは豊かだっていう概念を伝えていくことが、自分たちのミッションだと思うんですよね。それが地球を守ることにもつながる。
気候変動をはじめとする環境問題って、人間の欲で生み出されてきたものだと思うんです。それが、もうあとがないところまで来ている。世界各国が、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルに取り組んでいますが、バリュエンスグループでは2030年までの達成を目指しています。
自分達だけではできないことも、1人、2人と仲間が増えれば、与えるソーシャルインパクトも大きくなる。継続的に発信をすることで、まずは問題提起をしたい。そしていずれ、問題解決のフェーズに入っていきたい。そんなふうに考えています。
バリュエンスグループは、プレミアム顧客向けアートラウンジ「バロン バイバリュエンス」を2022年5月に東京・銀座にオープン。